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semスキン用のアイコン01 原田正治 『弟を殺した彼と、僕』 semスキン用のアイコン02

  

2007年 03月 07日

a0035172_2234.jpg森達也の書評を読んで以来、とても気になっていた。森曰く、「凄まじい本」
ようやく手にとってみるが、確かにそのプロローグの1ページ目から、衝撃的な内容で、僕らに切実なる違和を投げつける。それはこのように始まる。

長谷川敏彦君は、僕の弟を殺害した男です。
「大切な肉親を殺した相手を、なぜ、君付けで呼ぶのですか」
ときどき質問されます。質問する人に僕は、聞き返したい気持ちです。
「では、あなたはどうして呼び捨てにするのですか」
彼が弟を殺したことを知る前から、僕は、彼を君付けで呼んでいました。弟を殺したと知り、彼をどれほど憎んだでしょう。
「あなたは僕が彼を憎んだほどに、人を憎んだ経験がありますか」
質問者には、こうも聞いてみたいものです。それともこう聞きましょうか。
「あなたは、僕以上に、長谷川君を憎んでいるのですか」
彼を憎む気持ちと、彼を呼び捨てにすることとは違います。長谷川君のしたことを知って、呼び捨てにしてすむ程度の気持ちを抱く人を、僕は羨ましく思います。彼をやさしく信頼できる人だと思っていた僕も、彼を憎んで憎んで憎みきっていた僕も、彼を赦せないと思いつつも彼との面会を求めた僕も、彼の死刑を待ってくれと言った僕も、彼が死刑となって取り残された僕も、いつも僕は彼を「長谷川君」と呼びました。どれも、彼は彼であり、呼んでいたのは僕なのです。
被害者遺族が家族を殺した人物を呼び捨てにする、と思い込んでいる人は、世間に多いと思います。被害者遺族は、世間が求める姿でなければならないのでしょうか。仮に大部分の被害者遺族が呼び捨てにしたとしても、すべての被害者遺族が、そうする必要はないはずです。被害者遺族といっても、一人ひとり人格があります。それぞれが違う人間なのです。それぞれが自分のやり方で、迷ったり、つまずきながら、事件から受けた様々な深い深い傷から立ち直ろうとしているのです。どうか僕たち被害者遺族を型にはめないで、各々が実際には何を感じ、何を求めているのか、本当のところに目を向けてください。耳を傾けてください。
(原田正治『弟を殺した彼と、僕』)
原田さんは自らの弟を保険金目的で撲殺した犯人の一人、長谷川君のことを憎む。彼を憎みながらも、彼と直に向き合うこと(元々は長谷川君と一対一で対峙し、彼を殴り倒したいという思いから始まる)を自ら望み、手紙のやりとりを通じて、事件に対する理解を少しずつ変えていく。決して、長谷川君のことを赦すことはできないが、それでも、彼が国家の手によって死刑に処せられることや死刑が確定した後には彼に面会もできないことに疑問を抱く。長谷川君の姉は新聞の誤報が元で世間の糾弾にあって自殺し、幼かった子供も成人後に人間関係が原因で自殺する。加害者の家族というその悲惨さに原田さんは同情する。社会は法の名の下に人を裁き、世間は制裁の名の下に人を貶める。それは被害者に何ももたらさないと彼は考える。マスコミはただひたすらに彼を傷つけ、社会は被害者という型からはみ出すような行動をとる彼を疎外する。
もちろん原田さんの例は一般化され得ない。しかし、そういう例もあるのだということを僕らは知っておくべきだろう。物事を単純化し、一般化して理解することは容易いが、それは人から「思考」を奪うのである。

以前、ショーン・ペン監督作品『クロッシング・ガード』のレビューの中で僕はこう書いた。
「人が理由なく分り合えないという切実さを描いたのが『インディアン・ランナー』であれば、『クロッシング・ガード』はその地平をさらに一歩進め、そして反転させ、そこからポジティブな回路を模索しているように思える。追う者と追われる者という図式は同じだが、双方にはそれぞれ、そうするための理由が存在する、加害者と被害者という明確な理由があり、それは、お互いが分かり合える足場を既に失っていることを意味するのだ。にもかかわらず、お互いがその『分かり合えなさ』に対する信憑すら持てず、失った足場の上空でもがきながらも理解への希望を捨てていないようにみえる。絶望的な立場を超えて、人と人はどうコミットし得るのか。いや、絶望的だからこそ、意味を求めてコミットする、その向こうに何があるのか」

ただ理解するというところから物事を理解していく、そういうやり方もあるのだ。
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by onomichi1969 | 2007-03-07 02:20 | | Trackback | Comments(0)

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