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Rock and Movie Reviews : The Wild and The Innocent

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semスキン用のアイコン01 XTC "Oranges & Lemons"(1989) semスキン用のアイコン02

  

2007年 11月 24日

XTC \"Oranges & Lemons\"(1989)_a0035172_10542693.jpgXTCはポストパンク時代にデビューし、80年代に活躍したイギリスのPop&Rockバンドである。が、僕はリアルタイムでこのバンドの曲をそれほど聴いていない。彼らのアルバムで初めて手にしたのは高校時代に図書館で借りてきた”Black Sea”(1980)であるが、ちょうど受験勉強の時期だったこともあって、あまり熱心に聴いた記憶がない。その後、大学生になって、しばらく洋楽自体を全く聴いていなかったが、ストーンズの来日公演の影響で、個人的に洋楽熱が一時的に盛り上がったこともあって、その年のMusic Magazine誌のベストアルバム選からいくつかCDを借りてダビングした。それは例えば、Aerosmithの完全復活作”Pump”(1989)であり、Elvis Costello “Spike”(1989)であり、Tears For Fears “The Seeds of Love”(1989)、 XTC “Oranges & Lemons”(1989)、 Red Hot Chili Peppers ”Mother's milk”(1989)、The Stone Roses “The Stone Roses”(1989)、 R.E.M. “Green”(1988)、そして、The Rolling Stones “Steel Wheels”(1989)あたりだった(と記憶する)。これらのグループの中で、エアロやストーンズを除けば、これまでの80年代のメジャーなポップ・ミュージックとは違う何か新しいセカンドウェイブ的な流れを共通項として感じたのであるが、その90年代へと繋がる音、実は80年代を通底しながら90年代という時代を前にしてようやく息をつぐことになるこれらグループの音への興味を抱く前に、今度は本格的に洋楽を聴く事をやめてしまったのである。(そして90年代という音楽的に僕にとってのブラックボックスが生まれる) 時代はバブル全盛期とも言えるが、こと洋楽に関してはブームも後退し、既にその泡も弾けてしまったように今では思える。

さて、僕にとってXTCと言えば、”Black Sea”(1980)と”Oranges & Lemons”(1989)しか知らなかったのであるが、最近のレココレ・ベストにより、この2つのアルバムの間にも”English Settlement”(1982)と”Skylarking”(1986)という傑作があったということを初めて知った。ということで、これらのアルバム+ファーストを購入して、XTCの80年代のアルバムをようやく続けて聴くようになり、その卓越したポップセンス、楽曲とリズムの素晴らしさ、アルバムの構成力にはとても感嘆したのである。XTCは僕にとってリアルタイムの音楽であったにもかかわらず、今聴いてもその音楽が僕にとってリアルなものとして認識されない。それは、当時、全くと言っていいほどXTCに注目していなかったことと同時に、僕らがその時代にリアルに謳歌した表層的な洋楽イメージとは一線を画する彼らの音楽性所以であろう。

80年代を通底したポップ・ミュージック。80年代というのはポップという感覚が決定的に大衆化した時代だと思う。ちなみにポップとは何か? 以下は村上龍、1984年の言説である。
「のどが乾いた、ビールを飲む、うまい!」
「横に女がいる、きれいだ、やりたい!」
「すてきなワンピース、買った、うれしい!」
それらのシンプルなことがポップスの本質である。そしてポップスは、人間の苦悩とか思想よりも、つまり、「生きる目的は?」とか「私は誰?ここはどこ?」よりも、大切な感覚について表現されるものだ。
だから、ポップスは強い。ポップスは売れる。すべての表現はポップスとなっていくだろう。 

村上龍 『無敵のサザンオールスターズ』より

今では当たり前の感覚であるが、80年代という時代精神の核心には、竹田青嗣が「ポップの勝利」と呼ぶ、この単純な欲望への従順とでも言うべき感覚の共有化があったと言える。
洋楽の世界ではその代表選手が、ホール&オーツであり、ワム!であり、マイケル・ジャクソンであったわけだが、それと同じレベルで、内面の喪失とか、主体の変容とか呼ばれた現象として、何か僕らの中で失われつつあったもの、その喪失感そのものを掬い上げるようなものとして、アンダーグラウンドのサブカルチャー、XTCやR.E.M.のポップ・ミュージックは存在していたと思える。意識的に浮上を拒んだ、アンダーグラウンドから捉えたアッパーサイドにあるポップさというものをこれらの音楽から感じることができる。

80年代初期、P.I.L.やポップ・ミュージック(グループ名)によって過激なアンチ・ロックとも言うべきポップ・ミュージックが生み出されたが、80年代中期にこれらの音楽が省みられることは全くなかった。彼らの音楽そのものは象徴的、意味論的には正しく「ポップ」そのものであったが、僕らのフィジカルな感覚には到底受け入れがたいものがあった。(フィジカルには例えばオリビアの『フィジカル』が正しく受け入れられる。Let' get physical, physical !) これら過激なポップ・ミュージックが提示した「意味という病」は80~90年代という時代をウイルスのように潜行し、90年代後半に再び活力を得ることになるが、これはまた別の話である。(その音楽はインターネット時代の到来と共に現れる)

さて、XTCに戻る。
XTCの音楽は、80年代のポップを内側から表現することにより、その「空虚さ」そのものを顕現させた本質的なポップ・ミュージックである、と今では思える。そう考えれば、彼らの音楽の最も核心となるアルバムは、やはり、80年代中期を代表する”English Settlement”(1982)と”Skylarking”(1986)あたりになるのではないか。その色合いは微妙に違うが、ポップという殻を内側から舐めるような、そういった絶妙な振幅をこれらのアルバムから感じることができる。

そして、その延長線上(でありその境界線上)において、僕が最も評価するアルバムは、”Oranges & Lemons”(1989)になる。ここにおいて彼らの音楽は既にして80年代から90年代へと移行し始める。80年代に開花したポップの花弁は、内側の空虚を必然的に呑み込み、表面と内面を渾然一体化すると同時にその空虚さの自明性を喪失してしまう。そこに生まれたのは何か? ここではひとまず、笠井潔が言うところの「突き当った感覚」であると言っておく。

”Oranges & Lemons”(1989)は、67-68年頃に流行ったサージェント・ペパーズ風のアルバムをなぞるようにして作られた作品である。(Tears For Fears “The Seeds of Love”(1989)なんかも同じような色合いのアルバムであった) XTCの作品としても、地味めだった80年代中期のアルバムに比べて、初期の”Black Sea”(1980)に通ずるカラフルさやビート感覚を取り戻している。サージェント・ペパーズ風のアルバムが目指したのはある種の一体感、物語的な幻想である。XTCは意識的にこの物語的幻想をなぞるようにして80年代のポップ・ミュージックを総括してみせたが、もちろん、そこに現れたのはサージェント・ペパーズ風のラブ&ピース的な幸福感ではなく、ぎりぎりに自明的なあの「突き当った感覚」であったのだと思う。そのぎりぎりさ故に、僕はこのアルバム”Oranges & Lemons”(1989)を評価するのである。

『The Loving』が最高にいい曲だと思う。

by onomichi1969 | 2007-11-24 20:34 | 80年代ロック | Trackback | Comments(4)

Commented by ナイアガラ at 2008-05-31 23:06 x
XTCには駄作は1枚も無いと思います。

どれを買っても絶対に損はナシ!!

個人的には、本作の次に発表された『ノンサッチ』を推薦したいです。

『ノンサッチ』に収録されている「THE DISAPPOINTED」という曲は、
XTC MEETS THE BEACH BOYSといった趣きなのですが、この曲を聴く度にこういうのを完璧なポップスって言うんだなって、僕はいつも実感してしまいます。勿論、他にも極上のポップナンバーが満載です!!

是非、チェックを!!
Commented by onomichi1969 at 2008-06-01 00:18
ナイアガラさん、こんばんは。
90年代のXTCは全く聴いたことがありませんが、傑作であることは間違いないでしょうから、機会があれば聴いてみます。
Commented by suezielily at 2012-08-24 18:52
XTCは音が厚くてガチャガチャしているという印象(何せポリスの最小編成の音が大好きで)であまり夢中にはなれなかったのですが。メロディは綺麗。書かれているアルバム題、目にした記憶あります。輸入版チャートでは新譜出せば上位に来ていましたね。”This World is over”は好き。ミュージックライフ?書いておられる内容はMマガジンだっけ、中村とうよう氏の。それっぽいですが。
私はFool’s Mate, Rock’n’ on派でした。
オリビアの『フィジカル』,NHKでジャズ風に歌っていましたよ、日本人の3女性コーラス、パンツスーツ姿で。どうみてもNHKスタジオ内。さすがに歌が上手いけど、「イルカを殺す国には来ない」って言っていなかったかな。Stone Rosesやオエシスはマンチェスターだっけ。私にとってマンチェといえばJoy Division, The Smith, The Cureですけどね。
>80年代のメジャーなポップ・ミュージックとは違う何か新しいセカンドウェイブ的な流れを
S Rosesの前にJ.Dやスミスに出会わなかったのですか?それは音楽的不幸ですね。
今からでもお聞き下さい、拙Blogでもジャケ写使った写真や歌詞の引用しています。
Commented by onomichi1969 at 2012-08-28 00:11
suezielilyさま
ミュージックライフもMマガジンも中村とうようもよく知りませんが、僕がポップとは何かということで影響を受けているのは、竹田青嗣の『陽水の快楽』という本です。
Joy Division, The Smith, The Cureも聴きます。Joy Divisionの2枚のアルバムは昔よく聴きました。The Smithは特に好きというわけではないけど、彼らのQueen is Deadはいいですね。これも過去にレビューしています。
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