XTC "Oranges & Lemons"(1989)
2007年 11月 24日
さて、僕にとってXTCと言えば、”Black Sea”(1980)と”Oranges & Lemons”(1989)しか知らなかったのであるが、最近のレココレ・ベストにより、この2つのアルバムの間にも”English Settlement”(1982)と”Skylarking”(1986)という傑作があったということを初めて知った。ということで、これらのアルバム+ファーストを購入して、XTCの80年代のアルバムをようやく続けて聴くようになり、その卓越したポップセンス、楽曲とリズムの素晴らしさ、アルバムの構成力にはとても感嘆したのである。XTCは僕にとってリアルタイムの音楽であったにもかかわらず、今聴いてもその音楽が僕にとってリアルなものとして認識されない。それは、当時、全くと言っていいほどXTCに注目していなかったことと同時に、僕らがその時代にリアルに謳歌した表層的な洋楽イメージとは一線を画する彼らの音楽性所以であろう。
80年代を通底したポップ・ミュージック。80年代というのはポップという感覚が決定的に大衆化した時代だと思う。ちなみにポップとは何か? 以下は村上龍、1984年の言説である。
「のどが乾いた、ビールを飲む、うまい!」
「横に女がいる、きれいだ、やりたい!」
「すてきなワンピース、買った、うれしい!」
それらのシンプルなことがポップスの本質である。そしてポップスは、人間の苦悩とか思想よりも、つまり、「生きる目的は?」とか「私は誰?ここはどこ?」よりも、大切な感覚について表現されるものだ。
だから、ポップスは強い。ポップスは売れる。すべての表現はポップスとなっていくだろう。
村上龍 『無敵のサザンオールスターズ』より
今では当たり前の感覚であるが、80年代という時代精神の核心には、竹田青嗣が「ポップの勝利」と呼ぶ、この単純な欲望への従順とでも言うべき感覚の共有化があったと言える。
洋楽の世界ではその代表選手が、ホール&オーツであり、ワム!であり、マイケル・ジャクソンであったわけだが、それと同じレベルで、内面の喪失とか、主体の変容とか呼ばれた現象として、何か僕らの中で失われつつあったもの、その喪失感そのものを掬い上げるようなものとして、アンダーグラウンドのサブカルチャー、XTCやR.E.M.のポップ・ミュージックは存在していたと思える。意識的に浮上を拒んだ、アンダーグラウンドから捉えたアッパーサイドにあるポップさというものをこれらの音楽から感じることができる。
80年代初期、P.I.L.やポップ・ミュージック(グループ名)によって過激なアンチ・ロックとも言うべきポップ・ミュージックが生み出されたが、80年代中期にこれらの音楽が省みられることは全くなかった。彼らの音楽そのものは象徴的、意味論的には正しく「ポップ」そのものであったが、僕らのフィジカルな感覚には到底受け入れがたいものがあった。(フィジカルには例えばオリビアの『フィジカル』が正しく受け入れられる。Let' get physical, physical !) これら過激なポップ・ミュージックが提示した「意味という病」は80~90年代という時代をウイルスのように潜行し、90年代後半に再び活力を得ることになるが、これはまた別の話である。(その音楽はインターネット時代の到来と共に現れる)
さて、XTCに戻る。
XTCの音楽は、80年代のポップを内側から表現することにより、その「空虚さ」そのものを顕現させた本質的なポップ・ミュージックである、と今では思える。そう考えれば、彼らの音楽の最も核心となるアルバムは、やはり、80年代中期を代表する”English Settlement”(1982)と”Skylarking”(1986)あたりになるのではないか。その色合いは微妙に違うが、ポップという殻を内側から舐めるような、そういった絶妙な振幅をこれらのアルバムから感じることができる。
そして、その延長線上(でありその境界線上)において、僕が最も評価するアルバムは、”Oranges & Lemons”(1989)になる。ここにおいて彼らの音楽は既にして80年代から90年代へと移行し始める。80年代に開花したポップの花弁は、内側の空虚を必然的に呑み込み、表面と内面を渾然一体化すると同時にその空虚さの自明性を喪失してしまう。そこに生まれたのは何か? ここではひとまず、笠井潔が言うところの「突き当った感覚」であると言っておく。
”Oranges & Lemons”(1989)は、67-68年頃に流行ったサージェント・ペパーズ風のアルバムをなぞるようにして作られた作品である。(Tears For Fears “The Seeds of Love”(1989)なんかも同じような色合いのアルバムであった) XTCの作品としても、地味めだった80年代中期のアルバムに比べて、初期の”Black Sea”(1980)に通ずるカラフルさやビート感覚を取り戻している。サージェント・ペパーズ風のアルバムが目指したのはある種の一体感、物語的な幻想である。XTCは意識的にこの物語的幻想をなぞるようにして80年代のポップ・ミュージックを総括してみせたが、もちろん、そこに現れたのはサージェント・ペパーズ風のラブ&ピース的な幸福感ではなく、ぎりぎりに自明的なあの「突き当った感覚」であったのだと思う。そのぎりぎりさ故に、僕はこのアルバム”Oranges & Lemons”(1989)を評価するのである。
『The Loving』が最高にいい曲だと思う。
by onomichi1969 | 2007-11-24 20:34 | 80年代ロック | Trackback | Comments(4)
どれを買っても絶対に損はナシ!!
個人的には、本作の次に発表された『ノンサッチ』を推薦したいです。
『ノンサッチ』に収録されている「THE DISAPPOINTED」という曲は、
XTC MEETS THE BEACH BOYSといった趣きなのですが、この曲を聴く度にこういうのを完璧なポップスって言うんだなって、僕はいつも実感してしまいます。勿論、他にも極上のポップナンバーが満載です!!
是非、チェックを!!
90年代のXTCは全く聴いたことがありませんが、傑作であることは間違いないでしょうから、機会があれば聴いてみます。
私はFool’s Mate, Rock’n’ on派でした。
オリビアの『フィジカル』,NHKでジャズ風に歌っていましたよ、日本人の3女性コーラス、パンツスーツ姿で。どうみてもNHKスタジオ内。さすがに歌が上手いけど、「イルカを殺す国には来ない」って言っていなかったかな。Stone Rosesやオエシスはマンチェスターだっけ。私にとってマンチェといえばJoy Division, The Smith, The Cureですけどね。
>80年代のメジャーなポップ・ミュージックとは違う何か新しいセカンドウェイブ的な流れを
S Rosesの前にJ.Dやスミスに出会わなかったのですか?それは音楽的不幸ですね。
今からでもお聞き下さい、拙Blogでもジャケ写使った写真や歌詞の引用しています。
ミュージックライフもMマガジンも中村とうようもよく知りませんが、僕がポップとは何かということで影響を受けているのは、竹田青嗣の『陽水の快楽』という本です。
Joy Division, The Smith, The Cureも聴きます。Joy Divisionの2枚のアルバムは昔よく聴きました。The Smithは特に好きというわけではないけど、彼らのQueen is Deadはいいですね。これも過去にレビューしています。