横溝正史 『悪魔が来りて笛を吹く』
2007年 09月 24日
リアルタイムの映画としては、『悪霊島』が小学校6年生の時で、そのころテレビでも盛んに金田一シリーズが上映され、横溝正史の小説が再版ブームとなったと記憶する。僕の友達も金田一シリーズの小説をよく読んでいたが、その頃の僕は漫画と時代小説しか興味がなかったし、後年、海外ミステリーや新本格物を読み出したころも、トリックや犯人をあらかじめ知っているような探偵小説に改めて興味が沸くこともなかったのである。
というわけで、この年になるまで、横溝正史の小説作品は、日本ミステリー史上ベストワンの呼び声が高い名作『獄門島』や歴史的作品である『本陣殺人事件』、『夜歩く』以外は読んだことがなかった。(元来僕はそういったキャッチフレーズに弱いので、その辺は外さず読んでいる)
先週始め、金田一シリーズを読みたい!と急に思い立ち、『悪魔が来りて笛を吹く』『八つ墓村』『悪魔の手毬唄』という彼の代表作の文庫本をまとめ買いし、週末をかけて今ようやく読み終わったところである。もちろん、それぞれの作品は映画で観ているのでストーリーも犯人も了解済みであったが、とにかくそんなことがハンデにならないくらい夢中に読んだし、そのなんともいえない哀しく切ない文章には完全に魅了されてしまった。この調子だと、このシリーズを続けて数作品読んでしまいそうな勢いである。
僕は和洋問わずミステリーの名作を結構読んできた方だと思うけど、横溝作品については、上記の理由もあってこれまで読むことを敬遠していた。元々、ミステリーはフーダニットやハウダニットのような犯人探し、トリックの解明が全てであり、それを最初から知っていて読むようなことはナンセンスだと思っていた。アンチ・ミステリーや近年の謎解き以外の要素を含んだ文学性の強い作品と違い、戦後初期の日本のミステリーはやはりプロットの精巧さと意外性、それが解き明かされる際のカタルシスがあってこその作品だと思っていたのである。
しかし、そうではなかった。犯人やトリックを知りつつ読んだことが作品から別の何物かを浮かび上がらせることになったのかもしれないが、横溝作品はシンプルに「小説としてすごぶる面白い」のだ。
特に『悪魔が来りて笛を吹く』や『悪魔の手毬唄』などは、大岡昇平の心理小説のようでいて、その観念性は中井英夫の『虚無への供物』に比する。簡潔でいて独創的な描写も、ここでは精巧なプロットとその構築に苦心する犯人のホワイダニットの切実さによって表現力を増している。ある意味で大いに観念的ながら、その切実さがとても奥深い。それは、おそらく日本の前近代的な因習や怨念といったような土俗的価値感がミステリーというモダニズムと習合することによって得られる時代的にもギリギリのリアリズムであったと思う。もちろん、それは非現実的であり、一面には卑俗的でメロドラマ風でもあるけど、村落共同体の中で劇的に価値感が変遷していく戦後という時代的側面と新しく登場したミステリーという意匠によって、事件はそのベースとなる土俗的因習を確実に壊しながら、逆にその土俗的因習の切実感を確実に捉えたのである。これらは横溝作品の大きな魅力であり、独特の文学性だと僕は思う。
確かに『悪魔の手毬唄』は映画も素晴らしいけど、小説も一読の価値がある。そして、『悪魔が来りて笛を吹く』は映画がいまいちだっただけに、小説は必読と言っても過言ではない。近年、金田一シリーズはテレビの2時間スペシャルや劇場用に新しくリメイクされることが多いが、厳密に言えば、それらのドラマは原作のもつ時代的な緊張感、その色合いと匂いを確実に失っているような気がする。それも時代的に仕方のないことかもしれないけれど。
by onomichi1969 | 2007-09-24 00:13 | 本 | Trackback(1) | Comments(8)
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横溝作品,乱歩ほどじゃないけど好きですよ
最近、小説を読んでいないのですが、谷崎あたりを読んでみようかなと思っています。
その通りです。怖くないし、軽い。稲垣吾郎は文学も映画もよく勉強しているし、怪優じみてきて、彼が金田一演じる時はもっと何とかしてやればいいと思います。堺雅人の「リーガルハイ」で横溝のパロディやってたけど、余程面白かったです。
テーマ曲「あざみのごとく棘あれば」も好き。
謎解き本格ミステリは国内海外ともにあまり興味がなく、より人間が描けている作品が好きです。本格SFもあまり…ブラッドベリや筒井は好きですが。
ブラッドベリは僕も好きです。とても全部は読んでいませんけど。『たんぽぽのお酒』や『何かが道をやってくる』など。一番好きなのは、『火星年代記』ですね。すごくワクワクしました。