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Rock and Movie Reviews : The Wild and The Innocent

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semスキン用のアイコン01 地獄の黙示録 "Apocalypse Now" semスキン用のアイコン02

  

2006年 10月 04日

地獄の黙示録 \"Apocalypse Now\"_a0035172_23281238.jpgこれまで繰り返し語られてきたことだが、この映画は、悪夢の如き戦争を描いたのではなく、戦争に纏わる悪夢そのものを描いているのである。

まず、冒頭。密林を一瞬に炎と化すナパーム弾、「ワルキューレの騎行」の旋律とともに隊列を組むヘリコプターの一群。破壊の象徴としての圧倒的な重量感と硬質性、その神々しさ。戦争という生の破壊的状況において、それは荒ぶる女神の如き美しいものとなる。
中盤。ボートを駆って河の上流を目指す一隊に訪れるベトナム戦争という義なき闘争への疑念。剥ぎ取られていく人間性。河の上流は、明らかに人を正義から狂気へと導く思念的道筋である。
終盤。此の世の境界というべきド・ラン橋を超えた辺りより、映画には常に不穏な音楽が流れ続ける。ボートは遂に彼岸とも言うべきカーツ王国に辿りつく。カーツを神と崇める天国。それはカーツの思念的理想を生み出した地獄でもある。ウィラードによるカーツ殺しは、文化人類学的に言う「王殺し」であろうか。これもカーツの思念的達成である。<特別編では、カーツを殺したウィラードは、鬼が島から帰還する桃太郎の如く、村上春樹の「羊をめぐる冒険」の主人公の如く、現世に戻る。> 

ここまでストーリーを俯瞰してきたが、改めてこの物語の骨子を言えば、それは「狂気の先にあるもの、その一線を越えることへの抑えがたい欲望と恐怖」である。そしてその答えは、Nothingなのである。この物語はそういう悪夢なのだ。そう、これはコッポラの悪夢。彼が芸術的信念に基づいて辿った悪夢の先、現代の黙示録として名づけた物語の終末はNowhereであり、Nothingなのである。彼がただ善悪を超えた美しさ、心象の完全性のその先に描いた光景、それは物語として如何に脆く儚いものであったろうか。Nothing。その恐怖。そんなものは物語として、映像として描ききれるものではないのだ。その到達と挫折が混沌としたラストシーン。彼の作品に対する自身の評価は、どうだったのだろうか。それは、彼が80年代以降に辿った道筋によって示されている。しかし、映画界でこの領域にまで足を踏み入れた作品は数少ない。そして僕にとっても忘れがたい悪夢としてこの映画は脳裏に刻まれることになった。大傑作。<全くもって個人的に。。> 1979年アメリカ映画(2004-03-28)

by onomichi1969 | 2006-10-04 23:31 | 海外の映画 | Trackback(1) | Comments(4)

Tracked from イルカが愛を確かめにくる.. at 2006-10-05 09:04
タイトル : 音楽で振り返る映画② 「地獄の黙示録 特別完全版」
この映画は10数年前にビデオで観て、2001年の特別完全版を映画館で観たんだけど、正直言ってその時はうーむ・・・という感じだったんですよね。だけど時間が経つにつれざわざわと心が騒ぐ映画ってあって、これもそんな1本です。WOWOWやBSで放送する度に観てしまうし、DVDにも録画して。今では戦争映画では良作に挙げたい数本の中の1本。 サントラ曲名はこちら なんと言っても、この映画の良さのひとつは音楽の使い方。冒頭のプロペラ音から徐々にDoorsの「The END」に変わる部分から引きこまれてしまう...... more
Commented by bigblue909 at 2006-10-05 09:11
わ、やっぱり私が書いたのとは全然違う・・・知的です。ステキですonomichiさん(笑) けど、選ぶ言葉は違うけど、本質的なことは同じかなと思います。
私が「わからない」と言ったウィラードは、きっとNowhere Manだったんですね。He's a real nowhere man。
Commented by やぎ at 2006-10-05 12:18 x
「ジャーヘッド」を観たら、兵士の士気を高めるために、見せた映画がコレ。
ワルキューレのシーンが使われてて、私の士気も高まりました。w
っていうか、「ジャーヘッド」、クリスクーパーの出番少なすぎだ~。
Commented by onomichi1969 at 2006-10-05 22:15
BBさん、こんばんわ。
最後のウィラードの妙に間抜けな立ち振る舞いは、彼がNothingの境地に立ち入ってしまった所以でしょう。そう、彼は、まさにNowhere Manだったのかもしれませんね。

BBさんの映画レビューも独断的な清清しさがあって、とても素敵ですよ。
Commented by onomichi1969 at 2006-10-05 22:20
やぎさん、こんばんわ。
ワルキューレのシーンは僕も好きです。ロバート・デュバル間抜けすぎ。でも、それでもなんだか士気が高まってしまうという反転さ加減がこの映画のすごいとこでしょう。
これもまた戦争に纏わる悪夢なのかな。。
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