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Rock and Movie Reviews : The Wild and The Innocent

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semスキン用のアイコン01 The Beach Boys "Today!"(1965) / "Summer Days(Summer Nights!!)"(1965) semスキン用のアイコン02

  

2006年 04月 08日

The Beach Boys \"Today!\"(1965) / \"Summer Days(Summer Nights!!)\"(1965)_a0035172_2156117.jpgThe Beach Boys \"Today!\"(1965) / \"Summer Days(Summer Nights!!)\"(1965)_a0035172_21563625.jpgビーチボーイズと言えば、、、サーフィン&ホットロッド
当時、アメリカ西海岸の若者文化に直結したこれら2つの嗜好的イメージがビーチボーイズのコマーシャル戦略であり、彼らの曲やビジュアルには常にサーフィン&ホットロッドという2つのアイテムが盛り込まれた。これはビーチボーイズだけではなく、当時の音楽そのものがこれらのイメージをバックアップするファンクションに過ぎなかったのであり、そのチープさは足掻きようもなく自明のものであったのだ。

しかし、ビーチボーイズは、そんなサーフィン&ホットロッドという枠組みの中で数多くの名曲を生み出していく。それはひとえにブライアン・ウィルソンという優れたコンポーザーがいたからであろう。ブライアンの曲には彼特有の叙情があり、それが彼らの美しいコーラス、そしてブライアンの悲しみを湛えたファルセットによって歌われたとき、彼らにしかない、きらめくような輝きを放つのである。
“All Summer Long”(1964)は、初期ビーチボーイズの集大成的な作品であり、サーフィン&ホットロッドという枠組みを守りながらも、サーフロックというファンクションを軽々と超え、高い音楽性を実現したトータルアルバムとでも言うべき傑作であった。

ビーチボーイズにとって、もはやサーフィン&ホットロッドというイメージは一種の呪縛でしかなく、それを払拭することが彼らの次のステップにつながるはずである、、、というのは40年後の僕らからみれば火を見るより明らかであるが、当時はそう簡単には行かなかったようだ。また、ビートルズ等のブリティッシュバンドがチャートを賑わせる中、ビーチボーイズにとっても売れる作品を作ることが至上命令であり、レコード会社から常にヒットを確実視された彼らにかかるプレッシャーは並大抵ではなかった。それによって、ブライアンは精神に変調をきたすようになり、コンサートツアーへの同行を拒否し、スタジオワークに専念するようになる。

ブライアンは精神に変調をきたしたことで、自らの弱さを否応なく直視することになった。弱さを直視するということは、自らを見つめなおすことである。それは彼の曲作りに大きな影響を与えたはずだ。これまでの彼の曲にみられた叙情性は更に内省的となり、赤裸々に自分を表明する歌詞も加わるようになった。しかし、弱さを直視し続けることはとても辛い作業だ。人は常に弱さを抱えているにも関わらずそれに目を瞑り、常にそこから、その孤独から逃げ出したいと思う。そして強さを仮装するのだ。ブライアンは弱さを表明する。そして、彼はその弱さの表明と引き換えにして、ドラッグに手を染めるのだ。ドラッグは孤独を孤高の芸術に変えた。まるで悪魔の実のように。

The Beach Boys “Today!”(1965)は、サーフィン&ホットロッドを廃し、新しいビーチボーイズのソフトロック的なイメージを提供した。また、ブライアンはスタジオワークによって、彼が思い描いたフィルスペクター風のサウンドオブウォールをこのアルバムで実現する。冒頭の01 Do You Wanna Danceから02 Good to My Baby、そして大ヒットした05 Help Me, Rhondaまで、前半のアップテンポのナンバーはこれまでと同様な曲調ながら、1曲1曲がより作りこまれた印象を受ける。そしてA面最後を飾る06 Dance, Dance, Danceは、ある意味で象徴的な曲である。村上春樹の小説の題名ともなったこの曲、コーラスワークが絶妙で、ブライアンのファルセットも冴える初期ビーチボーイズを代表するナンバーであるが、それは同時に初期ビーチボーイズの最後を飾る曲にもなっている。
そして、このアルバムの白眉はB面に並ぶスロー~ミドルテンポのラインナップであろう。ブライアンの叙情性はより内省化された曲調となり、美しいコーラスと静謐なメロディは音の厚みと共にビーチボーイズの音楽を新しい境地へと導いた。
僕が好きなのは、B面2曲目の”08 I'm So Young”である。実験性を湛えたB面の曲群の中では凡庸な曲調だし、彼らのオリジナルでもないけど、この曲は確実に僕らの心に響く。それはたぶんこの曲には物語があるからだと思う。僕にとっては彼らの曲の中でも十指に入る傑作である。
それから、07 Please Let Me Wonder、09 Kiss Me, Baby、10 She Knows Me Too Well、11 In the Back of My Mindと、どれも聴き応えがある素晴らしい曲であり、どの曲も深く切ない。
改めて言うが、このアルバムのB面シリーズはビーチボーイズにとっての新しい境地であるのと同時に、ロック史におけるエポックメイキングな達成であり、このシリーズがなかったら、ビートルズの後期傑作群も生み出されなかったであろう。

The Beach Boys “Summer Days(Summer Nights!!)”(1965)は、“Today!”とその後の傑作”Pet Sounds”(1966)に挟まれて、あまり目立たない作品である。タイトルが示すように全体的なイメージとしてはToday!以前に戻ったような感じだが、アルバムとしての完成度というかアレンジの斬新性、その安定感はToday!以上であり、次作の”Pet Sounds”に向け、ブライアンがまた、アーティスティックな意味で一歩ステップアップしたことを十分に感じさせる。
このアルバムには美しき名曲19 California Girlsが収められている。僕らの世代にはデイブ・リー・ロスの底抜けに明るいカヴァーが有名かもしれないが、この原曲の美しさとそこはかとなく漂う切なさ、その素晴らしさには比すべくもない。
その他にも、15 Then I Kissed Herや21 You're So Good to Me、インストの22 Summer Means New Love、23 I'm Bugged at My Ol' Manが僕のお気に入りである。さらに美しいコーラス曲24 And Your Dream Comes Trueは、このアルバムがビーチボーイズにとっての「最後の夏」を象徴するものであり、それが「終わって」しまったことを僕らに思い至らせるのである。

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The Beach Boys "Surfer Girl(1963) / Shut Down, Vol. 2(1964)"のレビューはこちら!
The Beach Boys "Little Deuce Coupe(1963) / All Summer Long(1964)"のレビューはこちら!

by onomichi1969 | 2006-04-08 22:30 | 60年代ロック | Trackback(2) | Comments(4)

Tracked from 布袋寅泰とその他音楽と日常 at 2006-08-07 08:24
タイトル : 山下達郎『BIG WAVE』
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Tracked from 音楽の杜 at 2006-12-02 08:00
タイトル : Beach Boys 「Summer Days」(1965)
サーフィンミュージックから「ペットサウンズ」へ繋がる名盤 夏も終わりに近づきつつある今日この頃。こうした季節に聞きたくなるのがAORの名盤、フィニス・ヘンダーソンの唯一のソロと本作。 本作では⑥「ヘルプ・ミー・ロンダ」、⑦「カリフォルニア・ガールズ」という強力なヒットチューンが収録されており、これらが夏を代表するヒット曲というイメージもあると思います。でも私がこのアルバムをピックアップしてしまう理由は⑫「アンド・ユア・ドリームス・カム・トゥルー」にあります。 この曲、ビーチボーイズの...... more
Commented by ナイアガラ at 2006-08-07 08:31 x
THE BEACH BOYSはブート盤を買い集めてしまうほど溺愛しているので、
どのアルバムも本当に好きなのですが、強いて言えば『TODAY!』が一番好きかもしれません。
全曲素晴らしい作品ですが、確かにB面の構成は素晴らしいですよね。
晩夏の夕暮れ時が似合いそうなメロウなナンバーが目白押しです。
何と言っても「PLEASE LET ME WONDER」が素敵ですよね。山下達郎さんが完コピしたヴァージョンもかなり感動的です。
Commented by onomichi1969 at 2006-08-08 01:17
ナイアガラさん、連続コメありがとうございます。
僕は一番好きなのは、、、何でしょう??? とても言えないかもしれません。もちろん"Today!"は最高です。やはり僕もB面シリーズが素晴らしいと思います。ビーチボーイズのオリジナルアルバムは全部持ってましたが、ブートの世界は全く知りませんでした。またおすすめがあったら教えてくださいね。ぜひ。
Commented by 240_8 at 2006-12-02 08:03
古い記事にTBしてすみません。
同世代ということもあり、趣味が似ておりますね?
BBのサマーデイズは「And Your Dream Comes True」が大好きです。この曲を晩夏に聴くと、自分の今年の夏も終わったんだなと毎年感じます。また遊びに来ます!
Commented by onomichi1969 at 2006-12-02 23:28
240_8さん、こんばんわ。
雑食なところが似ているのでしょうか?僕の場合、高校生の頃に60年代や70年代の名盤と呼ばれるアルバムを「点」で聴いていったので、気がついたら雑食になっていたって感じでしょうか。FM誌の特集なんかに結構影響されました。。。
And Your Dream Comes Trueに関しては同感ですね。夏の終わりの物悲しい雰囲気が胸を締め付ける、素晴らしい曲です。
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