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Rock and Movie Reviews : The Wild and The Innocent

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semスキン用のアイコン01 Steely Dan "Gaucho"(1981) semスキン用のアイコン02

  

2010年 10月 09日

Steely Dan \"Gaucho\"(1981)_a0035172_0503157.jpg以前、ロキシーミュージックの音楽を形而上学的と称して、その進歩の直線的な止揚の過程を追ったことがある。ロキシーと同様に70年代から80年代にかけて音楽的な完全性を求めて進歩を突き詰めたバンドといえば、スティーリー・ダンの名前を挙げない訳にはいかないだろう。

スティーリー・ダンの代表作といえば、"Aja"『彩(エイジャ)』(1977)ということになろうか。"Can't Buy A Thrill"(1972)のデビュー以来、彼らは、独自のサウンド・クリエイティビティとテクニックを洗練させていき、アルバム毎にそのクオリティを上げていった。"Katy Lied"(1975)から"The Royal Scam"(1976)を経て、彼らは、音楽の形式をほぼ確立させ、"Aja"『彩(エイジャ)』というアルバムにその完成させたスタイルを結実させることになる。

Black Cow→Aja→Deacon Blues と繋がるA面の完璧な流れ。B面の最初を飾るPegの洗練と斬新。そして最後のWhen Josie comes home, so goodの残心。どれも印象的な曲でありながら、アルバムとしてひとつの流れを形成している。流れの中で曲は微妙に姿を変えつつ全体として調和していく。アルバムと曲の流れの中に平衡した系。流れが流れつつもバランスを保った系。そう、これは生命の本質的な姿でもある動的平衡。人間の生命がある種の完璧な系であるのと相似的にこのアルバムが完璧であることを印象づける。

人は完璧を求めれば求めるほど、シンプル化を徹底せざるを得ない。これは一般的なこと。複雑になればなるほどそのエントロピーは拡散の方向に向かい、物事は収拾が付かなくなる。シンプルであれば、物事は制御しやすいだろう。ロキシーミュージックもスティーリー・ダンも基本は音楽をシンプル化することの中でその音楽性を進歩させてきたと思える。そこにアルバムとしてのバランス、生成と消滅の平衡としてのバランスを持ち込むことにより、"Aja"『彩(エイジャ)』(そして、ロキシーで言えば『アヴァロン』)はアルバムのトータルとしての完璧さを実現したのだと思える。

"Aja"『彩(エイジャ)』の面白さは、そのディテールにもある。それぞれの曲のソロ演奏の巧みさが曲全体に実に絶妙な彩(いろどり)を添える。それが楽しい。が、それは劇的すぎる、、とも感じる。

スティーリー・ダンは、"Aja"『彩(エイジャ)』で彼らの音楽性を極めた。それは一般的な評価だろう。但し、"Aja"『彩(エイジャ)』は彼らの最終作ではない。本来、彼らの一つの頂点と言える作品、それは、"Gaucho"『ガウチョ』(1981)になるはずだったのではないか。。。

その冒頭。ゆったりしたリズム。自然に繰り返され、敢えて変化を抑え、バランスされるループ。Babylon Sistersを聴けば、彼らがこのアルバムで目指したもう一段上の極みを見出すことができる。自然との快い調和と微妙な緊張感、生成と消滅の流れと平衡という、人間の本質であるが故に人間にとっての完璧な音楽イメージがここにある。変化がないからこそ、曲は時間を超えて、過去の作品を、そのフレーズと変化を、彼らの音楽的な過程を必然的に想起させる。

Babylon Sistersこそは、彼らの渾身の1曲だったに違いない。想像力の音楽。

しかし、Babylon Sistersの完璧さはアルバムという流れの中で最初の1曲目のみに止まり、2曲目以降に続いていかなかった。2曲目以降の凡庸さは、アルバム製作に関わる幾多のトラブル(マスターテープの消失やキース・ジャレットによる盗作の訴え)やウォルター・ベッカーの不調がアルバム自体の出来に反映されたものと思える。

一般的に言って、"Gaucho"『ガウチョ』は"Aja"『彩(エイジャ)』程に評価を得ていない。アルバムをトータルとしてみれば、その完璧さという観点において、それは妥当な評価というものだろう。結局のところ、彼らは"Aja"『彩(エイジャ)』というアルバムを超えられなかった。完璧さは、その頂きにおいて崩壊していく運命だったのかもしれない。Babylon Sistersを頂点として、完璧さが崩壊していく過程。それが、"Gaucho"『ガウチョ』(1981)というアルバムなのだろうか。それはそれでひとつのプロセスであり、逆にBabylon Sistersという曲をより美しいものにみせているとも思える。


Steely Dan \"Gaucho\"(1981)_a0035172_0511282.jpg

by onomichi1969 | 2010-10-09 23:03 | 80年代ロック | Trackback | Comments(0)

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