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Rock and Movie Reviews : The Wild and The Innocent

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semスキン用のアイコン01 加藤典洋『敗戦後論』 semスキン用のアイコン02

  

2024年 03月 10日

加藤典洋『敗戦後論』_a0035172_22263294.jpg『敗戦後論』の主題は、戦後日本より改憲・護憲等の所謂右派左派の主張が分裂しつつ、一つの人格として「ねじれ」て存在していること、その主体の「人格分裂」の可視化であり、こういった自己欺瞞をどう自己回復させるか、という文学的な課題であった。つまり『敗戦後論』は文芸批評であり、歴史論でも政治論でもない。しかし、その文学的視線は殆ど理解されず、多くの批判を浴びた。故に『戦後後論』でその主題は「文学とは何か」に移行し、その論拠について、続く『語り口の問題』の中で、アーレントを軸に「共同性」と「公共性」の違いについての議論となる。

加藤典洋逝去のネット記事を見て、改めて彼の代表作『敗戦後論』を20数年ぶりに読み返した。ここで語られた内容が今でも、いや「君」が完全に世界という水面下に沈んでしまった今だからこそ、文学的視点というものすら見失われつつある現代だからこそ、時代を超えて読まれる価値がある評論だと確信した。

今、巷では、共同体の語り口によってのみ各自の正義が語られる。右派と左派。被害者と加害者。個人と政治。共同性を軸とした語り口ではいつまでたっても「ねじれ」は回復しない。本来語られるべきは公共性であり、それを掴むには、主体としての在り方、文学の感度こそ必要なのだ。

詰まるところ、文学とは何か? 分裂した現代日本に蔓延る自己欺瞞からの快復。そこには「文学」の視点とそれを伝える「語り口」こそが見直されるべきだろう。(2019-6-2)

# by onomichi1969 | 2024-03-10 09:00 | | Trackback | Comments(0)

semスキン用のアイコン01 柄谷行人『力と交換様式』を読む semスキン用のアイコン02

  

2024年 03月 10日

柄谷行人『力と交換様式』を読む_a0035172_00134698.jpg柄谷行人の言う「交換様式」を自分なりの理解で解釈すればそれは一種の「観念」の実体化となる。

笠井潔が『テロルの現象学』で唱えた「自己観念」「共同観念」「党派観念」「集合観念」という4つの観念がある。その中で「集合観念」は既知でない理想的なものとして、党派に向かう悪霊化した「自己観念」の浄化として、精霊的な要素を関係に組み込むことにより、平和的に他者達をゆるく繋ぐものとして考えられた。

交換様式Dが、向こうからやってくるものとして、原始的な贈与関係の高次元の回帰として、霊的な要素を湛えた関係としてあるとすれば、私には笠井潔の「集合観念」の事例が思い浮かんだ。というか、結局はヘーゲルの「精神」なのだと経験的に結び付いた。(笠井潔はヘーゲルを否定的に扱っていたが、その思考は正しく「精神」に帰結していた)

そう考えれば、下部構造の交換様式の帰結として、人間の心=霊的問題(文学、芸術と同じ出自)に自然と落ち着くのです。(2024-1-11)

# by onomichi1969 | 2024-03-10 08:55 | | Trackback | Comments(0)

semスキン用のアイコン01 千葉雅也『現代思想入門』 semスキン用のアイコン02

  

2024年 03月 10日

千葉雅也『現代思想入門』_a0035172_01153253.jpgこの本がベストセラーで且つ新書大賞を獲得したということは「現代思想」がまた若い人達に読まれているということであり、これは素晴らしいことです。

私はバブル世代の末端ですが、学生時代に現代思想ブームがあって、竹田青嗣の「現代思想の冒険」が生協の本屋に平積みされてました。当時から現代思想の代表格デリダ、ドゥルーズ、フーコーはよく紹介されており、多少の知識はあったけれど、千葉雅也のこの本の解説がとてもわかり易くて大変感心しました。

千葉雅也、國分功一郎、彼らの哲学本は昔みたいに難解さを売りにするようなところがなく、思想の紹介に留まらず、平易で生活に根ざした個人の悩みや社会の困難さを共有するような文学性があるのが素晴らしいと思います。そこに相対主義を超える「公共」への道筋があるという論理はとても説得的です。(2023-2-12)

# by onomichi1969 | 2024-03-10 00:09 | | Trackback | Comments(0)

semスキン用のアイコン01 東浩紀『訂正する力』 semスキン用のアイコン02

  

2024年 03月 10日

東浩紀『訂正する力』_a0035172_00111075.png東浩紀の思考。郵便的、誤配、一般意志、観光。そして「訂正する力」。構造論における変化の可能性から彼の一貫した考えとその一般化の過程が伺える。

情報一部を切り取りして物事を断定しないように、人には「聞く力」「訂正する力」があり、それは社会の中で普通に働いている。ネット上ではそういう働きを起こりにくい為、議論という「考えを擦り合わせる」手段が不毛化してしまう。誤解、或いは東浩紀の言う「誤配」は認識を深めるチャンスなのに、それを断定し、ゼロイチに落とし込んで固着化させてしまう。

『訂正する力』は社会にとって重要な視点だと思います。結果から見るのは誰でもできます。社会に当事者として関わり公共を考えていくなら、考えを表明した後でも、周りの意見を聞き、自らを訂正していくことは大事な所作だと思います。(2023-10-19)


# by onomichi1969 | 2024-03-10 00:00 | | Trackback | Comments(0)

semスキン用のアイコン01 宮本常一『忘れられた日本人』 semスキン用のアイコン02

  

2024年 03月 09日

宮本常一『忘れられた日本人』_a0035172_00204344.jpg読み物としてとても面白い。1930年代から戦後にかけて、日本のいくつかの村の生活を具に綴った記録として興味深く読める。
柳田國男民俗学が系統的に学問化することで、溢れ落ちたもの、忘れられたもの。そういう本来多様化していった日本の村の姿を生活誌として掬い上げたこと。取捨選択せずにあるがままを記録しながらその構造を捉えようとした姿勢には共感を覚える。

「日本人の本当の姿」というものはない。「本当」を目指す唯物論的史観ではないもの。それが宮本常一の生活誌的な考え方だと思う。(2023-8-9)

# by onomichi1969 | 2024-03-09 23:36 | | Trackback | Comments(0)

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