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semスキン用のアイコン01 Tom Waits "Small Change"(1976) semスキン用のアイコン02

  

2009年 12月 20日

a0035172_2303275.jpgこの間、たまたまテレビを観ていたら、トム・ウェイツの"Tom Traubert's Blues"が流れてきて、何だと思ったら、山崎豊子ドラマのエンディングテーマだった。少しびっくりした。ただ、これで、トム・ウェイツの曲もカラオケで歌えるかなぁと思ったりして。(これ大事!)

トム・ウェイツについては、80年代のバラエティに富んだ名作"Rain Dogs"(1985)を中心としたレビューを以前書いた。今回は、70年代のトム・ウェイツ。初期2作からのちょっとした転換期となった作品であり、上述の"Tom Traubert's Blues"をオープニングに据えたことで有名な"Small Change"(1976)について簡単に紹介したいと思う。

トム・ウェイツと言えば、やはり初期2作。"Closing Time"(1973)、"The Heart of Saturday Night"(1974)が最も人気のある作品だろう。
彼の若々しい濁声は情感溢れるメロディに映える。都会の片隅のバーで弾き語る。土曜の夜も更けゆく、閉店間際、彼の声は夜の帳に身に沁みる、そして響きは暖かさを感じさせる。曲も素晴らしい。イーグルスのカバーで有名な"Ol' 55"や"Grapefuits Moon"、"San Diego Serenade"など、彼の代表曲は既に多くのミュージシャンに愛されるスタンダードナンバーと言ってもいいだろう。

そして、1976年、初期2作の叙情から洗練さへとイメージを変化させた作品、スモールチェンジという題名で発表されたアルバムの冒頭を飾るのが"Tom Traubert's Blues"である。この曲は、「多くのファンがもっともウェイツらしいと思う曲」であり、また「時代を越えた名曲」であると評される。(Wikipediaより) 確かに、彼のこれまでの抒情的バラードを踏襲する曲調でありつつ、アレンジを含めて、楽曲としての重厚感を増した分、心に残る。そして、彼の声。トム・ウェイツの声は、アルバムの冒頭のこの曲で一気にしわがれる。(唐突に老成する)

"Tom Traubert's Blues"は、サビの部分でオーストラリアのトラディショナルソング「ワルツィング・マチルダ」の一節を引用している。ワルツィングは舞曲のワルツとは関係なく、当てもなくさまよい歩くという意味で、マチルダというのは放浪者が持ち歩くズダ袋(愛称マチルダ)のことだそうな。マチルダは食料や必需品を入れる袋でもあり、枕でもあり、要は彼の全て(の財産そのもの)だったという。

彼は歌う。

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Wasted and wounded, it ain't what the moon did
I've got what I paid for now
see ya tomorrow, hey Frank, can I borrow
a couple of bucks from you, to go
Waltzing Matilda, waltzing Matilda, you'll go waltzing
Matilda with me

役立たずで、傷ついている、それは月の仕業ではなく
俺は代償を得ただけだ
また明日だ、やぁフランク、俺に2-3ドル貸してくれないか
ワルツィング・マチルダ、ワルツィング・マチルダ
お前が俺と一緒にくるのさ、ワルツィング・マチルダ

(中略)

and you can ask any sailor, and the keys from the jailor
and the old men in wheelchairs know
that Matilda's the defendant, she killed about a hundred
and she follows wherever you may go
waltzing Matilda, waltzing Matilda, you'll go waltzing
Matilda with me

お前はどんな船乗りに聞くこともできる、牢獄の鍵
車椅子の爺さんは知ってるさ
マチルダが被告人で、彼女が100人ばかりを殺したことを
彼女はお前が行く所に付いて来る
ワルツィング・マチルダ、ワルツィング・マチルダ
お前が俺と一緒にくるのさ、ワルツィング・マチルダ

and it's a battered old suitcase to a hotel someplace
and a wound that will never heal
no prima donna, the perfume is on
an old shirt that is stained with blood and whiskey
and goodnight to the street sweepers
the night watchman flame keepers
and goodnight to Matilda too

ボロボロの古いスーツケースはホテルか何処かに
癒えることのない傷があり
プリマドンナではないが、
血やウィスキーが染込んだ古いシャツに香水を
街の清掃屋におやすみ
彼らは夜の警備員であり、伝統の継承者
そして、マチルダにもおやすみを、、、

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細かい歌詞の意味合いはよく分からないけど、
ここにはこれまでの都会の片隅といったような目に浮かぶ情景とは違う、物語的な世界がある。
フランクが登場し、過去や幻想と現実が交錯する。
彼は旅に出る。薄汚れたシャツとスーツケースと共に。
彼の全てであるマチルダに、「おやすみ」をつぶやく。

彼の80年代を彩る物語の萌芽こそがこの曲だろうか。

アルバム"Small Change"は全体としてジャジーな色合いが濃くなっている、と同時に"I wish I was in New Orleans"や"Bad Liver & Broken Heart"のような抒情溢れるバラードもあり、"The Piano Has Been Drinking"のような少しくだけた曲、"Invitation to the Blues"や"I can't wait to Get off Work"のスタンダードっぽい曲もある。前2作と以降(70年代後半から80年代初期の"One from the Heart"まで)の色彩が程よく交じり合っている。まさにSmall Changeな味わいであり、その移行期独特のバラエティがこのアルバムを聴き応えあるものにしていると感じる。

トム・ウェイツはその後80年代に大きな変化を迎えることになる。
その彼の変化の由来こそはこのアルバムにあるのかもしれない。彼が求めたものがある種の幻想であり、物語性であったことは確かであろう。そこには最初から意味性は剥奪されていた。(それはズダ袋の中に捨てられて) 失われた意味から紡ぐ物語。それこそが80年代以降のアイロニーとしてのフランクの物語であり、トム・ウェイツという演者そのものであったのだろう。
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by onomichi1969 | 2009-12-20 00:38 | 70年代ロック | Trackback | Comments(0)

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