庄野潤三 『静物』
2009年 09月 23日
氏の代表作と言えば、『静物』ですね。
個人的にも大好きな小説です。この作品の凄さについては、いろんなところで書かれていますので敢えて繰り返しませんが、とにかく凄い短編小説です。淡々と描かれる凡庸な日常、安定した家族の日々の心情が、たった数行の叙述によって、全て危ういものに変化してしまう、まるでホラー映画のような恐ろしさを秘めた小説なのです。村上春樹の短編案内にも紹介されていたと記憶します。氏の以後の小説『夕べの雲』も『静物』や『プールサイド小景』あってこその作品でしょう。実際のところ、『夕べの雲』には、表面上全くといっていいほど日常の危うさや破綻の雰囲気さえもありませんが、それが潜在化されてしまっているところに『静物』以後の氏の作品の背景があるのだと僕は思っています。物語は潜在化しているのです。それは現代の風景そのものでもあります。
ご冥福をお祈りいたします。
by onomichi1969 | 2009-09-23 01:00 | 本 | Trackback | Comments(0)