Kate Bush "The Kick Inside"(1978)
2008年 01月 13日
正直に言えば、当時、僕はケイトの魅力があまり分からなかった。小鳥のさえずるようなと形容されるハイトーン且つチャイルディッシュなボーカル、時にハイテンションでエキセントリックな曲調、19歳の少女から大人への移り変わりを音楽という舞台で表現しつくしたような彼女独特の世界がそこにあった。その女性的な世界観を16,7才の青坊主が理解できなくてもしかたがない。ケイトの音楽には70年代の少女マンガ的な世界観との共通項を感じるが、そういった少女マンガの凄さを僕が本当に理解するのはそれから15年も後のことである。ケイトの魅力も今になってこそ分かるマージナルなもので、その強く意識もせずに大人になってしまった通過儀礼への郷愁がその魅力を理解するためのベースとなっているのかもしれない。
このアルバムでは01"Moving"、03"Strange Phenomena"、05"The Man With The Child In His Eyes"、06"Wuthering Heights"、13"The Kick Inside"などが出色だと思うが、特にヒット曲ともなり、それぞれ『嵐が丘』と『天使と小悪魔』の邦題で知られる06"Wuthering Heights"と01"Moving"は彼女の代表曲であり、誰もが一度ならずも耳にしたことがある、ポップ・ミュージックの名曲と言っても過言ではないだろう。
彼女は、その後の"Never For Ever"(1980)『魔物語』、"Hounds Of Love"(1985)『愛のかたち』等の傑作を発表し、80年代のポップ・ミュージックのフロント・ランナーとなる。その活躍の舞台はイギリスが中心であった為、アメリカでのヒットはさほどではなかったが、それが逆に当時のアメリカ的なコマーシャリズムに毒されていない分、ポップ・ミュージックの本質を素直に追求するアルバムを次々と発表できたのだと思う。
そして、1987年にはピーター・ガブリエルとの共演で"Don't Give Up"をアメリカでシングルヒットさせる。この曲の魅力については以前のエントリィで書いた。
彼女はその曲調やボーカルスタイルをアルバム毎に変化させ、"Hounds Of Love"(1985)『愛のかたち』の頃にはもう大人の女性の魅力、少女趣味とは違う大人の女性の力強さやそこから滲み出る癒しの魅力を存分に発揮するようになる。もちろん彼女自身の声質の変化もあったのだろうけど、それはスティーヴィー・ニックスにしても、マライア・キャリーにしても同様で、女性シンガーが初期の魅力と年を経る毎に培われる魅力に違いが出てくるのはその声質の変化もあるから仕方がない。でも、そこには初期の初々しさと入れ替わるように着実に積み重なる奥深い魅力が確実にあるのだ。
その後は寡作ながらもアメリカでもヒット作を発表し、最新作の"Aerial"(2005)は前作から12年ぶりのアルバムだという。本作も高評価を得ており、彼女の魅力はまだまだ衰えを知らないようで、それはまさにアンチエイジングとでも言うべきものだ。女性が年を経る毎に得る魅力について、僕もようやく理解しつつある。。。
by onomichi1969 | 2008-01-13 10:46 | 70年代ロック | Trackback | Comments(0)