Rock and Movie Reviews : The Wild and The Innocent

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semスキン用のアイコン01 Bruce Springsteen & the E Street Band "Live-1975-85"(1986) semスキン用のアイコン02

  

2006年 01月 07日

a0035172_0375240.jpg2006年の新春第1弾は、コレだ。

Bruce Springsteen & the E Street Band "Live-1975-85"(1986)

最近、村上春樹初の音楽批評本で紹介されているのを読んで、この作品を聴いてみようと思った。実はブルースの最高傑作ともうたわれるこのライブ盤を僕は聴いたことがなかったのだ。"Born to Run"(1975)を初めて聴いた時の衝撃以来、僕はブルースのファンで、同じミュージシャンのアルバムを揃えようと思ったのも彼が初めてだったし、オリジナルは1stから"Tunnnel of Love"(1987)まで昔から持っているけれど、何故か、このライブ盤は聴いたことがなかった。
確かに発売当時もかなり話題になって、プロモビデオでのあの"Born to Run"の大観衆一体となったライブの臨場感には圧倒されたし、画面一杯に表現された彼のマッチョ性にはある意味で痺れた。でも当時、僕はこのライブ盤にとびつかなかった。それは一体何故だろうか?

それは単純に僕がライブ盤があまり好きではなかったことによるか。当時も熱狂的ライブ・パフォーマンスが伝説となりつつあったブルースにしたところで僕にとっては同じだったのだ。特に彼のライブからはライブ特有の(と当時の僕が感じていた)アドリブやインプロヴィゼーションを競うような演奏力の凄さが感じられるはずもないし、熱狂的なライブ・パフォーマンスといってもそもそも"Live at Leeds"のようなものとは全く違うので、特徴的となるロウなステージの魅力がそのままライブアルバムにパッケージされるとは限らないではないか、と思っていたのだ。まぁそれは今にして思えばライブアルバムというものに期待するものが全く違っていたとしかいいようがないが。

さて、そういうわけで今回、年末に購入してからこのアルバムをしばらく聴き続けているが、そこに村上春樹の言う「物語の共振性」のようなものを感じたか、と言えば、僕にはいまいちよく分からないというのが本当のところだ。実はこのライブアルバムで僕がベストチューンだと思うのはアレンジをアコースティックに変えた"Thunder Road"であり、"No Surrender"であったりする。もちろんアルバム全体を通して思いのほか演奏が素晴らしく、ブルースのポップなロックチューンがライブ的に映えるが、僕がブルースという歌手にある種の切実さを感じていたとすれば、それは"The River"的な震えであり、"Growin' Up"的な青さであり、それこそカーヴァー的な人生の暗黙に対する噛みしめを歌の切実さと響きで表現できるところだ。
だからこそ、僕は"Born to Run"のPVを観て素直にブルースのライブ空間に入っていけなかったし、大観衆がウェイブで一体となる大合唱の光景とブルースの歌に響く原風景が一致しなかったのだ。"Born in the USA"(1984)から"Live-1975-85"(1986)へと到達する80年代中期のブルースの行き方の中で、彼の音楽性が引き伸ばされたポップさと大衆性、そして巨大化したBOSS像の中であまりにも象徴的というかシンボリックになりすぎて、僕には彼の意味深い切実さが無意味な一体感に転化してしまったとしか思えなかったのだろう。それは僕が彼の2ndアルバムの"The Wild, the Innocent and the E Street Shuffle"(1973)や3rdアルバム"Born to Run"(1975)こそが最高傑作だと信じていたからかもしれないが。

今では彼がコンサートというライブ空間で目指したものがある種の祝祭的な場、それもあくまで観客が主体となるべき場であったと感じることができる。だから彼はより多くの観衆の前で演じ、彼らに歌を歌わせたのだろう。彼は既にして一歩先のステージに立っていたのか。そう考えればアルバム"Live-1975-85"(1986)はまた違った色彩を帯びているように思える。僕らは"Hungry Heart"で出だしから第一コーラスまでをまるまる観衆に歌わせてしまうというブルースのライブでの恒例行事をこのアルバムでそのまま聴くことができるし、ブルース定番のMC、そう"The River"の前の語りもまた祝祭に必要なある種の儀式であって、単なる予定調和を超えた意識的なものだったか。

そんなわけで、僕のブルースに対する評価は、基本的にこれまでと同様なのだが、やはり村上春樹の評論に説得的に教えられるところもあって、僕はブルース・スプリングスティーンという歌手を別の見方で捉えることができるようになり、それに対してちょっとした感慨を抱くことになった。
もしかして、労働者階級のアメリカ人たちが感じるブルース像とそれをひとつの芸術として理解しようとする僕自身の間の溝こそが大きいのかもしれない。そういう齟齬というのは、そもそもが僕自身の問題なのだろうな。たぶん。

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Bruce Springsteen "The Wild、The Innocent and The E Street Shuffle"(1973)のレビューはこちら!
Bruce Springsteen “Born in the U.S.A” (1984)のレビューはこちら!
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by onomichi1969 | 2006-01-07 01:24 | 80年代ロック | Trackback | Comments(2)

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Commented by k-hiko at 2006-01-13 09:33 x
Born To Run 30ThのDVDも、届いてからまだ開けてもみてないんですけど、すごく楽しみです。
これもアナログだとすごい量で、ひっくり返したりするのが、すごい面倒なので、全く聴いてません(笑)
特定の曲を聴くぐらい・・・。
でも、多分、そろそろボスの機運が個人的に盛り上がるだろうなあと思ってるので、聴いてみますね。全部聴けるかどうか、分かりませんけど(笑)
Commented by onomichi1969 at 2006-01-14 01:02
k-hikoさん、こんばんわ。
僕はたまたま寄ったTower Recordで財布が暴走して買ってしまいましたよ。"Born to Run"30th Anniversary set
ライブDVDはやっぱり凄かったですね。個人的には73年の映像がよかったかな。ちょっと画面が暗いのが気になったけど、ライブって本来はこんな暗さなんだよなって改めて実感。。
僕は既に盛り上がってきましたよ。勢い余って"Tunnel of Love"以降のアルバムも買ってしまいそうです。(実は持っていませんでしたので、、)
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