Pink Floyd “Dark Side of the Moon”(1973)
2005年 04月 02日
The lunatic is on the grass.
狂気はグラスの上にある。
この場合、井戸は自己深層のメタファーであり、その底にいる大きな鰐こそが死の観念化、或いは狂気であろうか。60年代後半はドラッグカルチャーとも言われ、多くの者たちがドラッグによって、鰐を飼いならそうとした。井戸の底には目くるめく快楽があり、新しい発想が自然に溢れ出す源泉があったのである。その源泉に触れようとして、何人かの者たちは鰐に食われて死んだ。中には再起不能となった者もいた。観念であったはずの死が実体化したのである。
そして、人は、井戸の底に向かうことを止め、地上に目を向け、虎を飼いならすことに向かう。虎を懐柔し、非猛獣化することで、井戸を脱出し、人々は地上での自由を得たのである。
The lunatic is in my head.
狂気は私の頭の中にある。
今や、狂気の質というのも少し変わってきている。鰐のような死を観念化したような実体は既にない。実体がないので、そもそも飼いならすこともできない。そこに境界はなく、僕はただ佇んでいただけなのに、それはいつの間にか僕を覆い、気がついたら僕はそこにいるのである。
There's someone in my head but it's not me.
誰かが私の頭の中にいますが、それは私ではありません。
僕らは狂気をどう扱えばいいのだろうか。村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』は、人の心の中に存在する異様なもの、様々な形態をとるおぞましいもの、そういったものに捉えられた人々の物語であり、ある種の狂気に対する距離感を描いている。狂気は多様化し、自己の中に矮小化されつつ、確実に息づいている。
Pink Floyd “Dark Side of the Moon”(1973) のテーマも「狂気」への親和である。
彼らは狂気の側に立つものとして、音楽を奏でるが、その立ち位置にはある一定の距離感を感じる。自ら狂気を標榜することに、もはやリアリティは感じられず、その奥行きは既に失われてしまった。狂気は確実に局地化し、潜在化している。このアルバムが長い期間、アメリカで売れ続けてきた現実は、そんな狂気の矮小化ともいうべき現象を如実に示しているのではないだろうか。彼らがこのアルバムを発表して30年以上が経過し、狂気は様々な形をとって、ふたたび僕らの前に現われつつある。
時代は変わっても、人の本質は変わらない。僕らは多くのことを経験してきたが、気がつけば、僕らの中にこそ「井戸」が存在するという事実を知るに至るのである。
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Pink Floyd "Meddle"のレビューは、こちら
"Wish You Were Here"のレビューは、こちら
by onomichi1969 | 2005-04-02 23:53 | 70年代ロック | Trackback(2) | Comments(12)
≪※「成瀬巳喜男など映画篇」から続いています。≫ ◆ 続いて、音楽(Rock、Pops)のお喋りを… 僕はRock、Popsの好きな曲を浴びることは、端的に言えば、言葉を失ってしまうほど心地良い訳なのですが、兎も角、今年に入ってから新品のCDを結構買っています。(^^) 僕は、その良し悪しはともかく、余りものに執着しないもので、輸入盤、国内盤とあれば、その時々で安い方を買っていますから間違っても散財までは行っていないと思うのですがね...((^^; 兎も角、先週あたりか...... more
今日のジャケ画は Pink Floyd 「The Dark Side of the Moon」 ワタシはプログレ系はそんなに聴かないのですが、 このピンク・フロイドだけは熱心に聴いてます。 妖しくサイケ!(^^ゞ 元々ワタシは60年代のサイケな音楽が大好きなので、 ピンク・フロイド...... more
ここはもう、A lad in saneについてもいつかなにかエントリィを期待。
ピンクフロイドってやっぱり語るに足るバンドなのだなぁと思いました。書いていて、いろんなことを想起させるんですね。
ピンクフロイドのアルバムでは、『原子心母』や『おせっかい』が好きですけど、彼らの到達点はやっぱり『ザ・ウォール』なのかなぁ、と。
まだ書けないけど、今度は『ザ・ウォール』からもう一度『原子心母』に戻ってみようと思ってます。
A lad in sane? A lad insane??かな。。
一般的な意味なら、何か書いてみたいですね。
ザ・ウォールは、ぼくにとってフロイド入門盤(サイケなアニメ映像のビデオを観て吐きそうになった遠い記憶も)で、いちばんわかりやすかったようで、やっぱり全然理解できていない1枚かもしれません。ふとany body out there?のひとことが脳裏に浮かぶことが、あります。
なるほど、アラディン・セインでア・ラッド・インセインかぁ。納得!
そういうことだったのですね。
でも、ボウイのこのアルバム、実は聴いたことがなかったりして。。
逆にbles1974さんのレビューを期待しますよw
悪名高きあの映画ですね。。。
僕にとってもピンクフロイドの中で『ザ・ウォール』が一番聴かないアルバムなのです。なんというか、思想が前面に出すぎている感があるような気がして、とっつきにくいというか。僕も今のところ殆んど理解できてないですけど、まぁ理解というものは、そもそも自分なりの解釈でもありますからね。そのうちに。。。
それにしても、、、Aladin Saneかぁ。。。なるほど
ぼくが、あのアルバム(popで聴きやすいのに、なぜか黒い印象が)心でひっかかっていたことが、このエントリィでふとつかえがとれた・・るかもと感じたのです。なんででしょうねえ。
「Money」のサックスソロの後のギターの音がたまりません(中学生レベルのコメント)
ぜひ聴いてみますね!
blues1974さんのお薦めなら、聴かないわけにはいかないでしょう!!
といいますか、POPで黒いっていう印象がなんとも怪しげで気に入りました。。
>このエントリィでふとつかえがとれた・・
レトリックの罠に捉えられているだけかもしれませんよ。。ふふふ
マーロン・ブランド系ギルモア氏のファンでしたよね。確か。。
プログレッシブ・ロックは苦手でしたか。。。
でも、ピンクフロイドって、プログレなんだけど、プログレじゃないというか、、やっぱりロックなのだと思ふ。。
それも個人的な解釈でのプログレッシブなロック。(訳分からんな。。)
とっても楽しく&興味深く拝見させていただきました。
私にとっては、ピンク・フロイドは一つのジャンルのような気がします(笑)「狂気」も何百回聴いたか分からないけれど、特に「タイム」〜「虚空のスキャット」などが言葉にできないくらい好きです。「タイム」の最初の時計の音は未だにドキッとしたりして☆
それから私は音楽を聴く時、あまり歌詞を読まない人なのですが、ロジャー・ウォーターズの書く詩は何故かとても好きです。「原子心母」の「if」とか☆
ところで、マーロン・ブランド系ギルモアって(笑)そういえばギルモアは若い頃モデルだったらしいんですけど、ホントなのかな??(信じられない;;滝汗)
ピンクフロイドを語ると、ルナ☆がやってくる。。なんかいいですねw
And if I were a good man, I'd talk with you more often than I do.
胸が締め付けられるような歌です。
若い頃のギルモアの写真を見るとなんとなく納得しますね。モデルっていうのも。年取ると結構悲惨ですがw
この盤は個人的に大好きな盤だったりします♪
1stと同じくらいに大好きですw
どちらもサイケデリックでステキ☆彡
これを聴くと「マネー」のリズムがアタマから離れないことがあったりします(^^ゞ
久々の2連休を控えて、心躍るonomichiです。
プログレに疎い僕にとってもピンクフロイドはこれまた心躍るグループの一つです。『原子心母』『おせっかい』そして『狂気』ですね。
全然関係ないですけど、最近、財布が暴走して買った『明日なき暴走』のDVDに痺れています。これはすごいライブですね。(特に73年のやつ!)
あとフリートウッドマックの97年ライブも遂に買ってしまいました。これもよかったです。
音楽ライブのDVDにはまりそう。。。