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Rock and Movie Reviews : The Wild and The Innocent

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semスキン用のアイコン01 Richard Manuel "Live at the Getaway"(1985) ~失われた歌声~ semスキン用のアイコン02

  

2004年 10月 16日

Richard Manuel \"Live at the Getaway\"(1985)  ~失われた歌声~_a0035172_17134968.jpgとても哀しいアルバムである。
リチャード・マニュエルは、言わずと知れたザ・バンドのメンバーであり、初期ビッグ・ピンク時代のフロントマンである。ザ・バンドとは、リチャード・マニュエル(p,key,dr,vo)、ロビー・ロバートソン(g,vo)、レヴォン・へルム(dr, mandolin,vo)、ガース・ハドソン(org,p,key,vo)、リック・ダンコ(b, violin,g,vo)の5人組で、1968年に「Music from Big Pink」でデビューし、解散するまでの10年間の音楽活動の中でアメリカン・トラディッショナルやR&Bに根ざしたロックの傑作を数々生み出した伝説のバンドである。「I Shall Be Released」「Lonesome Susie」「Tears of Rage」、そして「Whispering Pines」。リチャードのエモーショナルで切ないファルセットは、ザ・バンドの提供するバラードソングになくてはならない要素だった。もちろん、彼特有のR&Bテイスト溢れるシャウト唱法も素晴らしい。ともすれば乾いた味わいのザ・バンドの楽曲に艶を与えていたのは間違いなくリチャードの声だった。もちろん、彼の軽快なピアノやとぼけた味わいのドラミングも忘れがたい。
しかし、ザ・バンドがアルバムを重ねる毎にリチャードの影は段々と薄くなっていく。殆んどの楽曲をロビーが手がけるようになり、ボーカルもレヴォンが中心となっていく。
「ラスト・ワルツ」でリチャードは殆んど脇役だった。あの映画の中でリチャードがボーカルを取った場面がどれほどあったか。
70年代、リチャードがアルコールとドラッグに溺れ、精神にも支障をきたすようになったことは知られている。まともな音楽活動ができず、ザ・バンドの中でも浮いた存在になっていったことは想像に難くない。(浮いた存在という意味ではロビーも然りだったろうが) しかし、レヴォンにしてもリックにしても、ザ・バンドのメインボーカリストはリチャードであり、彼をおいて他にはいないと常に公言していたのだ。僕らが思う以上にそれは自明のことであるのだろう。
「Whispering Pines : Live at the Getaway, Saugerties, NY」(2002)は、ザ・バンド解散後のリチャードが1985年ウッドストック(ビッグ・ピンクの近く!)で行ったソロライブを収録したものである。ザ・バンドを聴いたことがない人は、いきなりこのアルバムから入ってはいけない。まず、ザ・バンドのオリジナルアルバムを順番に聴いていくことをお薦めする。それから、このアルバムを聴くのだ。そこにかつてのリチャードの繊細な歌声やインスピレーション溢れる熱情は存在しない。僕らは彼の失われた歌声を、あの響き渡るファルセットを想像し、その喪失をなぞるだけなのだろう。このアルバムから、彼が音楽を本当に楽しんで演奏している様子、そのリラックスをした姿勢を感じることができる。リックやバンド仲間とのやり取りも確かに微笑ましい。しかし、僕にとってはやはり、永遠に失われてしまったもの、そのかけがえのなさを思い知らされる、そういう色合いのアルバムなのである。その哀しさ故に、僕はこのアルバムを殆んど聴いていない。
このアルバムに収められたライブから半年後、リチャードは自殺し、その存在自体も永遠に失われた。

by onomichi1969 | 2004-10-16 17:20 | 80年代ロック | Trackback(3) | Comments(5)

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タイトル : ザ・バンド「怒りの涙」
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ジョー・コッカー 「With a Little Help from My Friends」 1968年 ... more
Commented by teacherteacher at 2004-10-16 22:35
はじめまして~。
おぉ、リチャード・マニュエルだ、 渋い!
ザ・バンドは、あまり聴かないのですが1stの「怒りの涙」はいいなぁ。
彼の腹の底から出てるような、男っぽい声は、じーんとしまする。
レヴォン・ヘルムのドラムは、ちょっと物足りないかな・・もっとドカドカと。

ディランと共演したライブ盤、「Rock Of Ages」大好き!
Commented by onomichi1969 at 2004-10-17 03:03
コメント有難うございます。このサイトは全く個人的な感想をメモってるだけのつもりでいたので、反応いただけて本当に嬉しいです。

やっぱり、ザ・バンドはキング・オブ・アメリカン・ロックですよ。<実は殆んどがカナダ人なのでこの表現も微妙ですが。。。> 僕は大好きです。どのアルバムも「はずれ」なしです。

teacherteacherさんはどうやってこのサイトに来たのでしょう? jtnews以外にはアドレスをアップしてないのでそこからなのでしょうか?実はブログ公開の仕組みもよくわかっていないonomichiでした。。。
Commented by teacherteacher at 2004-10-18 00:13
ここに来たのは、エキサイトの「音楽」という所に載っていたからです。
すごく丁寧な文章を読んでいると、onomichi1969 さんって
本当に音楽好きなんだなぁって思います。 
私の音楽ネタは、ミーハーすぎて・・目も当てられないくらだべ。 もっと精進せねば!

音楽とか映画って、人によって感じ方が違うのでおもしろいですね。
性別とか、季節、住んでいる所によっても違うかもしれないけど。
・・何か、変なコメントになってしまった。 でわ。また~
Commented by onomichi1969 at 2004-10-19 00:43
どうもです。
エキサイトの「音楽」というところですか。ふむ。あまり覚えがないですね。いつの間にかトラックバックしてたんでしょうね。たぶん。

僕の場合、好きな映画や音楽について書くという行為がちょっとしたリハビリみたいなものでして、やっぱり皆様に読んでいただくとより一層の自己療養になりますw

それにしても、マルコム・マクドゥエルも年を取りましたなぁ。老けすぎだ。。。 僕もThe Whoの大ファンなので、今度レビューしようかなと思っています。やっぱり個人的には「Tommy」かなぁ。
Commented by teacherteacher at 2004-10-19 22:40
バカ文満載の私のところに、訪問ありがとうございました。

私も「Tommy」大好き。聴いていると楽しくなってくる(重い話だけど)
「すてきな旅行」のドラムは、いつきいても新鮮です。30年前の音だなんて・・
onomichi1969様のWhoのレビュー楽しみです。
私は、一度もWhoについては、書いていないのでした。キースネタは何回もw
・・未だに「Kids Are Alright」を見ると、涙が止まらないバカな奴でやんす。
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