乱れる
2010年 12月 31日
僕の中で高峰秀子と言えば、成瀬巳喜男の作品。『稲妻』、『流れる』、『浮雲』、『娘・妻・母』、『乱れる』あたりが思い浮かびます。特に加山雄三と共演した『乱れる』は僕の好きな作品で、最後に思いもかけない展開となり、日頃冷静でしっかり者の彼女が我を失う表情で終わるラストカットがとても印象深いです。
高峰秀子の成瀬作品での特徴は、ツンとすました感じの雰囲気とあのちょっとひねたような独特の語り口調ではないかと思います。戦後的な新しい、女性的な芯の強さが彼女の個性でした。『稲妻』とか『流れる』とか、まさにそんな感じですね。『乱れる』は、彼女が40歳の頃の作品ですので、もうそういった新しさはありませんが、それでも彼女らしい女性的な強さを持ち、一人で酒屋を切り盛りするしっかり者で貞淑な未亡人として作品に登場します。しかし、義弟役の加山雄三のアプローチを受け、彼女は「乱れる」のです。それも徐々に徐々に心が揺らいでいき、気持ちが彼に傾いで、最後にはどうしようもなく心乱れてしまう、、、その様子がこれまでの彼女の役柄にはない分、とても新鮮だったのだと思います。この作品は、成瀬巳喜男の傑作であるとともに高峰秀子後期の代表作でしょう。
木下恵介の作品だと、『二十四の瞳』、『喜びも悲しみも幾歳月』、そして『笛吹川』でしょうか。『笛吹川』も彼女ならではの芯の強さが役柄によく表れていて、作品の普遍性を高めていたと思います。
個人的には小津作品の『宗方姉妹』も結構好きで、田中絹代の妹役を愛嬌たっぷりに演じていて、他作品とは少し違う彼女の惚けた味わいがよく表現されていました。
ご冥福をお祈りします。
by onomichi1969 | 2010-12-31 22:17 | 日本の映画 | Trackback | Comments(0)